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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)506号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

原告は同盟系の労働組合であり、被告は訴外会社の労務部長として在職し、現在にいたつている者である。昭和四九年四月一〇日訴外会社は同社を申請人、本訴原告を被申請人として原告の違法なストライキを理由として就業妨害禁止等仮処分申請を東京地裁に申立てその疎明資料として別紙報告事項上段1ないし9記載のとおりの報告書四通を東京地裁に提出した。

原告は右の記載はいずれも虚偽であつて真相は別紙報告事項下段の1ないし9記載のとおりで、これを訴訟手続上明らかにするためには、弁護士を依頼して事件の処理をはからざるを得なくなつたとして、その損害を請求したのが本件である。

【判旨】

二別紙報告事項について

原告は別紙(編注、略)報告事項上段記載1ないし9は前記仮処分事件の疎明資料として被告がなしたものであるが(前示のとおりこの点は争がない)、これらはいずれも虚偽の事実であつて真相はこれに対応する同下段1ないし9記載のとおりである旨主張するので、以下、前記一に明らかにした経過を前提に項を分つて検討する。

1 別紙1の違法ピケツテイングについて、

<証拠>によると、昭和四九年四月一〇日の全面スト当日の状況として、原告組合員らは会社始業時の午前八時半を遡る一時間くらい前から出勤して本社の通用門、正面玄関、新館入口等にたむろし、スクラムを組んで歌をうたつたりして非組合員等の入場を阻止してきたが、一〇時頃になると会社構内に入ることが難しいと判断した会社側の指示で非組合員等は帰宅したこと、多くの非組合員はストだから仕方がないという気持ちで強いて入場しようとするほどでもなかつたようであるが、中には仕事の関係でどうしても入場したいという者もいて、例えば国外からのテレツクス処理の必要から入場したいといつた大田秘書、団体交渉委員として入場を求めた菅原人事課長らは前向きの解決に協力するなら入れるとかいわれて入場できなかつたこと、菅原課長は会社内部にいた被告に合図し、中から被告が正面玄関をあけピケを組んでいる組合員を突破して迎え入れ、危く組合員との間に喧嘩になりそうな状態であつたし、副社長で米人のケーンも入場阻止のピケ隊員のスクラムを体当りで突破して入場したこと、なお、前日組合側から保安要員以外は副社長、重役、団体交渉委員、守衛以外の入場は阻止する旨の申入れがなされたのに対し、被告はそれは違法ピケになるから平和的説得の範囲でやつて貰いたいと答えたようないきさつがあつたことが認められる。以上の事実によると時間的にも数時間の幅があり、場所的にも二、三ケ所のへだたりがあつて、多くの場合には平和的説得が効を奏したのであろうが、中には完全ブロツクのピケで入場を阻止されたとみるべき場合もあるといわねばならないし、違法ピケかどうかについても認識や解釈の相違があつて一義的に虚偽と断定することはできないというのが相当である。

2 同2の会社構内への立入りの実力阻止について、

これも前同様であつて原告側、被告側における事態の認識の相違に基づくもので一概に虚偽と断じ得ないことは前認定のとおりである。

3 同3のビラの貼付について、

<証拠>によると、多数のビラが採光を妨げるほど貼付されていることが認められる。原告代表者の供述によると原告組合は採光を妨げるほど多数のビラを貼つたことがなく、訴外会社における原告以外の総評系の組合が貼つた残りの空いた部分に原告組合はビラを貼つたもので、ビラには原告組合を表示しているから、いずれの組合が貼つたものか直ぐ解る筈というが、ビラ自体から組合の識別が一見して容易とは受取れないし、残りの空いている部分にビラを貼れば採光が悪くなるのは当然であり、ただ、被告は四月一一日の暴風雨でビラが剥がれていたので前記の妨ぐビラの貼付禁止の仮処分申請は取下げられるにいたつたと述べているから、容易に剥ぎとれない程度に糊付けして貼付したという点だけが、そうではなかつたのではないかという疑が残るが、これも事態の主観的認識の相違に帰せられる性質のもので虚偽と断定できるものではない。

4 同4のストライキの形態変更について、

原告代表者と被告の双方本人の各尋問の結果を対比すると、ストライキの形態変更とは、原告組合が四月一一日以降組合員九二名の無期限指名ストを通告しながら、参加人員を徐々に増員していつたことに対する解釈の相違にあることか明らかである。原告側は増員の都度口頭で通告しており、ストの形態を変更したことにはならないと云い、被告は受けていないから無通告増員はストの形態の変更に当ると解釈していると云うのであるから、全く見解の相違ないし言葉の解釈の問題であつて虚偽と断定するわけにはいかない。

5 同5の自動車二九台の現実の管理について、

原告代表者と被告本人の各供述を対比すると、この問題は原告組合側が全面ストの前日である四月九日に自動車の返還を求められ、組合としては占有管理しているわけではないから返還に応ずることはできないと、これを拒否すると共に組合員に対しては返還の必要はないから個々に自主管理するように指示したことはあるが、自動車はもともと組合員であるサービスマン個人が会社から貸与をうけて自主管理しているのであるから組合が現実に管理しているというのは虚偽であるというのに対し、被告は組合は四月九日の段階で返還の必要なしと組合員に指示しているが、組合員は組合の指示に従つているのであるから返還を指示されれば返還することは容易に推測される、その意味で組合は自動車を現実に管理しているといえるし、この場合の現実の管理とは組合側が考えているような組合が自動車の鍵を集めているとか車自体を一ケ所に集めるとかの問題を指しているのではないから報告の記載に虚偽はないという対立に帰することが明らかである。したがつて、問題は事実の評価、言葉の解釈の相違に帰せられるべきものであつて、双方それなりに理由があり、一概に虚偽と断定するわけにはいかない。

6 同6の自動車の無許可使用について、

<証拠>によると、被告は就業規則の附則としてラウトマン(順回サービスマン)社員服務規則第一四条一に「サービス部長又は営業所長の許可なくみだりに車輛を運転しないこと」及び同六に「社員は会社の車輛を業務以外の私用に供してはなりません」と定められており、平常であれば若干の私用使用にはこれを正確に把握する方法もないので黙認の形になつているが、指名ストライキ期間中指名スト参加者が私用に乗り廻すのは絶対に許されないとの見解を有しているのに対し、原告組合側では前記規則の存在を否定するわけではないが、これは前記ストライキ当時は全く有名無実で行われておらず、実際には交通事故を発生したような場合に罰として私用使用を期間を定めて禁止していたのが実情であるというのである。この問題は要するに見解の相違という以外になく、原告側は例外の原則化が実情であると云いたいわけであるが、原則と云い例外と云うもその根拠はいずれにしても前記規則に求められるのであり、平常時ならともかく、ストライキという異常時において労務担当の被告が私用使用を絶対に許されないという見解をもつのも根拠のないことではなく、一概に虚偽と断ずるわけにはいかない。

7 同7の自動車窃盗と告訴問題について、

<証拠>を総合すると、訴外会社は前記スト中の四月一六日付で副社長ハリー・Mケーン名義で「従業員各位」と題するビラを配付したが、その中に「営業所長に返還されていない会社の車は、警察に対し盗難車輛として報告されております」という記載があつたため、スト最中に警察の介入を招いて組合の団結を破壊されることを虞れた原告組合側は幹部が蒲田警察署を訪れ事情を説明したこと、警察では会社側から自動車の返還につき警察の力を借りたい旨の申出をうけているが、争議中のことでいずれに荷担することもできないとして被害届という形で聞いている旨答えて、告訴をしたとかしないとかの問題は出ていないこと、被告が別紙報告事項7の如き報告をしたことは間違いないが、これはスト中の会社所有の自動車の私用使用をはげしく非難する被告の見解と受けとられるものであつて正式に告訴ということになれば訴外会社には顧問弁護士もいるのであるから、同弁護士を通じてなされると思われることなどの事実が認められる。<証拠判断略>。したがつて被告のなした前記報告が虚偽であると認めるまでにはいたらない。

8 同8のマスターキイ返還について、

この点、原告代表者は各種ジユークボツクス等のマスターキイの返還するよう会社側からいわれたことはないと供述し、被告は四月一一日原告代表者にその旨を伝えたと供述して全く相反しているが、これらの供述のいずれが正しいかを裏付ける証拠はないので前記報告をもつて虚偽と断定することはできない。

9 同9のリース解除による出費減少の可能性について、

この問題は、原告代表者の供述によると、訴外会社は業務用に多数の自動車をリース会社から一年とか二年とか期間を定めてリースしているが、車輛にはすべて訴外会社のマークがいれてあり、会社の車輛課、サービス部などからリース契約期間中に解約をすることはできないと言明されているから前記報告にあるようなスト期間中契約を解除して賃料支払を免れることはできないと云うのに対し、被告の供述によると、リース会社にとつて訴外会社は上得意であり、スト期間中は車輛を使用しないから一時返還して、その間の使用料を免除してくださいということぐらいは法律上の問題ということではなく実社会では通常行われていることで交渉次第でどうにでもなるという趣旨で前記報告をなしたという点の対立にあることが明らかである。被告の右供述をもとに別紙報告事項上段9の記載を検討すると表現に適切でないうらみがないわけではないが、交渉次第という被告の供述も無下にしりぞけ難く、右報告をもつて一概に虚偽と断定するには、これを裏付けるに充分な資料がない。

三結論

以上のとおり別紙報告事項上段1ないし9をもつて一概に虚偽であると断定することはできないから、右報告の虚偽であることを前提とする原告の本訴請求は、その余の問題を論ずるまでもなく失当たるに帰し、棄却を免れない。

(麻上正信)

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